インドにジャナカ王という王様と、アシュタバクラという大臣がいました。
王様がアシュタバクラを信頼し、いつも彼に意見を求めました。
「これについて、お前はどう思う?」
するとアシュタバクラは、いつも決まって、同じ言葉を王様に返していました。
「起こる事は全て、最高の事でございます。
起こらなかった事も、それで全て最高でございます」
よく意味がわからないながらも、王様はそれを聞くと、
何となく安心感に満たされました。
そんなアシュタバクラを王様は、他のどの大臣よりも、とても可愛がり、
いつも自分のそばにおいていました。
ところが、他の大臣達は、アシュタバクラが可愛がられる事に嫉妬し、
面白くありませんでした。
「アシュタバクラの奴、いつも同じ事ばっかり言ってるくせに、
王様に気に入られている。
いつか懲らしめてやろうぜ」
他の大臣達は、虎視眈々とその機会を伺っていました。
そんなある日、王様が指をケガしてしまいました。
大臣達はこれはチャンス!とばかりに、アシュタバクラに罠を仕掛けました。
「王様が指をケガされたぞ。
お前はどう思う?」
するとアシュタバクラは、いつものようにこう答えました。
「起こる事は全て、最高の事でございます」
大臣達は、その事を王様に報告しました。
「王様! アシュタバクラは王様のケガの事も、最高の事だと言っております」
さすがに王様もそんな言い方をされては心外で、
アシュタバクラを呼んで尋ねました。
「お前は私が指をケガしたと聞いて、それは最高な事だと答えたそうだな」
「はい、王様。
いつも私が申し上げているではないですか。
起こる事は全て、最高の事でございます」
自分がケガした事を最高の出来事と言われ、更に腹を立てた王様は、
アシュタバクラを牢屋に入れてしまったのです。
それから幾日かする頃、王様は他の大臣を連れ、狩りに出かけて行きました。
その途中、王様は一人で森の奥深くにまで入りこんでしまい、
そこで人食い部族に捕えられてしまいました。
王様は身ぐるみはがされ、火あぶりにされるため、
木に縛りつけられてしまったのです。
さぁ、火をつけようかという時に、身動きの取れない王様の体を、
人食い部族達が確認しています。
すると、その内の一人が突然、大きな声をあげたのです。
「こいつ、指にキズがあるぞ!」
この人食い部族は、外敵から自分達の部族を守るために、
部族以外の者を捕え、火あぶりにして神に捧げていました。
いわば火あぶりは神聖な儀式であるため、
神様への捧げ物にキズがあってはならないのです。
「指にキズがある奴を捧げ物にしたら、大変な事になるぞ!」
こうして王様は間一髪のところで、開放される事となったのです。
宮殿に戻った王様は、アシュタバクラを牢屋から出して謝りました。
「お前の言った通りだった。
あの時はわからなかったが、確かに指をケガした事は、最高の出来事だった。
ケガをしていたからこそ、助かったのだから。
だがしかし、私には一つ、後悔している事がある。
それはお前を牢屋に入れた事だ。
すまない、許してくれ」
すると、それを聞いたアシュタバクラは、にこやかな表情でこう答えました。
「王様、私がいつも言っているではないですか。
起こった事は全て、最高なんです。
もし私が牢屋に入れられていなかったら、
私は王様と一緒に狩りに行った事でしょう。
狩りといえば、私もいつも王様のそばを離れませんから、
私も一緒に捕らわれていたでしょう。
私はどこもケガをしていなかったので、きっと火あぶりになっていたでしょう。
ですから王様、私は牢屋に入れられて良かったんです」
それを聞いて王様は悟ったといいます。
「そうか。
人生で起きる事は、本当に全て最高なのだ。
一見、良くない事のように見えても、広く見れば最高の事なのだ。
そして、その事を信じていなければ、それに気づかないんだ」と・・・
/インドの寓話より