その日、僕はタクシーで、グランド・セントラル駅に向かっていた。
すると、道路脇の駐車場から、いきなり黒い車が飛び出し、
僕の乗ったタクシーの前に、強引に割り込んで来た。
驚いた運転手さんが急ブレーキをかけたため、タクシーはスリップし、
前の車まであと数センチの所で、かろうじて停止した。
いきなり割り込むなんて信じられない!
でもその後、更に信じられない事が起こった。
黒い車を運転していた男(つまり、あやうく事故を起こすところ
だった張本人)が、こちらに向かって、大声で怒鳴り出したのだ。
一体、どういう思考回路をしているんだろう?
更に驚いた事に、被害者であるタクシーの運転手さんは、
男の行動に苛立つ様子も見せなかった。
それどころか、ニッコリと微笑みかけ、手を振って、
その場を去ったのだ。
これって、何かの宗教なのか?
いぶかりながら、僕は尋ねた。
「運転手さん、あんな奴に、よくもそんな態度がとれますね。
あいつのせいで、僕らは死んでいたかもしれないのに」
この時の運転手さんの返答が、僕が今、
「ごみバケツの法則」と呼んでいるものの原型となった。
彼はこう言ったのだ。
「お客さん、こういう仕事をしているとね、
ああいう“ごみバケツ”みたいな人に、しゅっちゅう会うんですよ。
彼らの心の中は、不満、やり場のない怒り、落胆といった感情の
“ごみ”でいっぱいなんです。
“ごみ”が溜まって、心のバケツからあふれそうになると、
今度は捨てる場所を探す。
その時、お客さんがそばにいれば、お客さんに“ごみ”を投げ捨てる。
相手はお客さんでなくてもいい。捨てさせてくれれば誰でもいいんです。
だからね、『何で自分がこんな目に!』なんて思う必要はありません。
ただ、ニッコリ笑い、手を振ってやりすごし、
幸運の一つでも祈ってやればいいんです」
/デイヴィッド・J・ポーレイ(元Yahoo!のクレーム担当者)
「あなたの心の『ごみバケツ』を空にする本(イースト・プレス刊)」より
ここに来たのは初めてかも。上野「清水観音堂」の舞台から見る桜は、なかなか乙なものだ。