午前中、携帯にかかってきた電話は登録されていない番号だった。誰だろう?
私は紹介のクライアントの方も多いので、いつものように普通に電話に出た。
「未空先生でいらっしゃいますか? ・・・のUです。いつもお世話になっております」
「こんにちは。Uさんでしたか。あっ、お嬢さんですね。お母様の具合はいかがですか?」
「それが・・・他界致しました」
「はい?」
「昨日の朝、容態が急変致しまして、亡くなったんです」
「・・・すみません。あのUさんが・・・ですか? 本当ですか?」
「そうです」
「・・・・・・・」
「お見舞いのカードやおハガキを頂きまして、どうもありがとうございました」
「・・・・・・・」
「母はとても喜んでいたんです」
「・・・・・・・」
「最後まで仕事の復帰を信じていて・・・ 未空先生から頂いたおびんずる様で、
(←2006.6.27付「高岡大仏」、29付「おびんずる様」参照)、ずっと体を撫でていたんですよ」
「・・・・・・・」
他界という漢字は頭の中に浮かんでも、それが死という意味と結びつかない。Uさんが?
何で? どうして? しばらく頭の中が混乱して、血が逆流するような感覚を覚え、
言葉が出なかった。そして沈黙が続いた後、私は泣き崩れてしまった。お嬢さんも
電話口で泣いている。
「母の手帳に未空先生のお名前が書いてありましたので、ご報告をと思いまして」
「そうだったんですか・・・ ご葬儀はいつでしょうか?」
「来て頂けるんでしょうか?」
「もちろんです。必ず行かせて頂きます」
「それでは、日程と場所をFaxさせて頂きますので」
「よろしくお願い致します」
電話を切った後、その場から立てなくなった私は、ただただ泣くだけで放心状態だった。
Uさんが検査中に激痛を訴え、緊急入院されていたのは知っていた。病状が少し落ち
着いた頃、お電話を頂いた事がある。私は仕事中で出られなかったのだが、Uさんは
留守電にメッセージを残してくれた。そのメッセージを聞きながら、このまま少しずつ
元気になっていくんだろうなぁ、本当に良かったなぁと心から喜んでいた。
だが、私は忙しさにかまけ、コールバックをしなかった。あの電話が最後だったのだ。
Uさんの元気でハツラツとした姿が目に浮かび、「未空先生、こんにちは!」と張り
のある明るい声が聞こえる。もう涙が止まらなかった。ただ泣くしかなかった。
なぜ私はあの時、Uさんにきちんとコールバックしなかったんだろう? 次から次へ
と色々な思い出が鮮やかに甦る。私は悔やんでも悔やんでも悔やみ切れなかった。