「ある時ね、私が進むべき道において、恋愛は邪魔だと思ったの」
彼女の口からそんなセリフを聞いたのは初めてだった。
「切り捨てた方が楽でしょ? 恋愛ってある意味、とち狂った時しかできないとも言えるから」
と笑った。だが、彼女はどっから見ても女であり、決して枯れてるワケではない。
以前「未空さんの理想の男性像は?」と聞かれると、「何でも楽しめる人がイイなぁ」と無邪気に
答えていた。確かに、今でもその気持ちに変わりはない。ただ最近思うのは、「その時、好きに
なった人」という方が正しいのかもしれないという事だ。恋愛を英語で「Fall in Love」というが、
まさに「恋に落ちる」と表現した方がRealな気がする。それは前触れもなく、ある日突然やって来る。
「未空さんもだんだん恋愛に求めるものが変わってきたでしょ?」
「うん、それは言える。でも、やっぱ奥の奥では変わってないかなぁ」
「私には対極の女性性が自分の中にあって、だから誕生日が2つあるっていうのも理解できたの」
「戸籍上と実際の生まれが1日違いだったんだよね」
「そう。ただ、男を切り捨ててはいけないって先生に言われたわ」
「女性性を否定するなって事だよね。恋愛してる時って、超不安定でしょ。ときめいて、期待して、
悲しんで、喜んで、腹立って、不安がって、妬いて、後悔して、幸せを感じて・・・とまぁ、
持ってる感情を総動員しないと、恋愛っちゅーモンはできないみたい(笑)」
「それだけ激しい感情って事よね」
「まぁ、人それぞれだけどね。恋愛にしても結婚にしても、人が人を好きになるって事は、逆にその
結果として人が人を嫌いになる、傷つける、悲しくなるっていう結果を引き出す要因に足を突っ込
んでるとも言えるよね。これは表裏一体だから。恋愛するにしても結婚するにしても、ある程度の
覚悟と自覚、自分の責任の下で、私がこの人を好きになったんだ、結婚する事にしたんだっていう
判断が必要になってくると思う」
「だから、できない(笑)?」
「恋愛は、♪うれしい楽しい大好き~だけでは済まされない。だって、自分の中の般若を見たもん。
でも、ずっと見てるうちに怖くなくなったっていうか、愛おしささえ感じるようになった。一瞬、
慈愛に満ちた女神にも見えるんだよね。これも表裏一体でしょ。何事も矛盾を抱えてるよね」
「私なんて年中そう。でもお気楽極楽に見えるらしくて、矛盾を抱えてるようには全然見えないらしい。
っていうか見透かす人もいないんだけど・・・」
「瞑想ですっごく救われたんだけど、新たな課題も出てきてね。これは想定外だった!」
「瞑想は逃げ場じゃないのよね。より自分と向き合わなければならない、ある意味厳しい世界とも言える」
「知らなきゃ知らないで済むんだけど、一旦始めた以上、もう後戻りできないし」
「魂がどんなに至福を味わっても、結局は肉体を持つ人間だから。その部分の幸せもセットじゃないと、
アンバランスなのよね。だから、生身を切り捨てた方が楽になる」
「でも、それでは女性性が満足しない」
「永遠の課題よね。どっちも知ってると、振り子の幅が激しくて大変よ」
「どうすればいいんだろ?」
「自分と折り合いをつけるというよりは、それを超越していかないと」
「でも、人を好きになるって悪い事じゃないじゃん」
「大切な事よね。ただ、今までと同じフツーの恋愛ではいかないわ」
「それじゃ純愛って事? 私にはよくわからない。何をもって純愛って言うんだろ?」
「その定義も曖昧よね」
「白黒ハッキリつけようと思うとつらくなるけど、好きなら好き。しょーがないよ。ココロが動いちゃった
んだもん。それだけは真実じゃん。素直にそれでいいと思う」
「あれこれ考えないでね。つけた白黒も引っくり返る事だってある。永遠なんてない」
「そう、理性の世界じゃないから」
「日々揺らぐのよね」
「そうそう。ゆらゆら~っとこんな風にね(←フラダンスの手だけ真似てみる(笑))。
だったら、波間に漂う海草でいよ~♪」
「そうしよ~♪」