世界的食糧難による戦争を経て、人間が「食べる側」と「食べられる側」に分類された時代。
食用人間は大規模農場で、家族も文化も言語も与えられずに飼育される。主人公の少年は、
学校の社会科見学で農場を訪れ、教師の「私達は彼らの命を食べて生きています。感謝して
食事しましょう」という道徳的解説を聞きながら、食用人間と自分との間に、何の共感点も
感じられない。後日、大企業の会長である叔父に連れられて、社会には知られていない秘密
牧場に行く。そこでは、大量生産のそれとは異なる美味なる肉を作り上げるために、家族と
衣服と文化と言語と、そして宗教を与えられた食用人間の一家が暮らしていた。彼らは、
自分が食用として飼育されていると知らぬまま、勤勉・敬虔な生活を営み、訪問者である
少年達をもてなす。一家には、少年と同じ年頃の美しい少女がいた。彼女が近々「収穫」
されると聞いた少年は、彼女を連れて、牧場を抜け出す。人肉食用に反対する過激派との
接触。自分が食べられる存在として生まれた事を知り、心の安定を失う少女。少女の家族
らに与えられていた、人工的宗教の創作者との出会い。過激派の一人は独断で、先の戦争
の発端となった家畜ウィルスに、遺伝子操作を施し、ヒトウィルスに変化させて、街に放った。
食べる側も食べられる側も、差別なく倒れてゆく死の街を離れ、警察にも過激派にも追わ
れて、少年と少女は雪深い山に入る。最後に、彼らの魂を救うのは、作り事であったはずの
「神」への信仰だった・・・
/福頼 宏隆
♪今日の理不尽 狂牛病、SARSのハクビシン、鳥インフルエンザ等、全ては人間の身勝手さから生まれてきたものじゃないか? 私もその一人だ。