生きている以上、人は自分を大事にし、より優れた自分と出会う努力をすべきである。
だから、凡人と達人の間を埋めるメカニズムは、どんどん解明され、それを方法論に
直したものも、続々と発表されていくでしょう。例えていえば、ハシゴ段のように、
それを一歩一歩上ることで、達人に近づける方法が、詳細に示されていく事でしょう。
そうなってきた時、そのハシゴ段を上らないでいる人は、「何で上らないの?」と問わ
れる立場に身を置く事になるのではないでしょうか。最も大事なところに話を戻します。
人は生きる以上、自分を大事にすべきであり、より優れた自分と出会っていくべきだ
と私は考えます。優れた生き方をしようが、でたらめな生き方をしようが、怠惰な
生き方をしようが、人間がこの地球上に占める面積も、食べる食物の量も変わらない
のです。言い換えれば、一個の人間が存在する以上、必ず地球、あるいは他の人類
や生物に対して、負担をかけている訳です。だとしたら、やはり自分と向き合って、
自分を高めていく努力をすべきなのではないでしょうか。それをさせるのは、自分の
意志と努力以外の何ものでもありません。日々他人に怒鳴りつけられたり、毎日毎日
甘い言葉で励まされたりする事で、できるような事ではありません。飴やムチを与え
るのも、本来自分の仕事なのです。研究者や指導者は、そのためのチャンスや情報
は提供します。頼まれれば、助力も致します。しかし、それ以上の事はできないのです。
自分を改善したい、達人になりたいという欲求は強くあっても、1~2年何かにちょっと
打ち込めば、凡人と達人の差が埋まると思っているとしたら、それははかない夢です。
そのような事でできるのは、せいぜい凡人の中で多少変わる事ぐらいです。そんな事で、
彼我の巨大な差を埋める事は、決してできません。凡人が真の達人になるというのは、
間違いなく一生の行なのです。しかも、その行に人生のかなりの時間とエネルギーを
注ぎ込まなくてはなりません。と聞いて、達人になるってそんなに大変な事だったのか、
と思う方がいたら、それは達人に対して失礼な話です。真に達人になった人達は、
まさに自分の生涯を賭けて、とんでもない時間とエネルギーを注ぎ込んだ結果、
達人になる事ができたのです。私達のような研究者が、学術的に作り上げた達人に
なるためのメソッドを知らずに達人になれる人には、まず天性の才能があるのです。
そしてその上に、自分の人生を賭けた努力があるのです。その努力の中身は何か
といえば、人生を賭けて注ぐ膨大な「時間」と「エネルギー」です。凡人といわれる
人達は、いま言った3つの要素のうち、天性の才能がありません。しかし、その
代わりに、私たち研究者によって、学術的に開発された方法の体系は得られます。
という事は、凡人が達人になるには、他の2つの要素、すなわち、そのために注ぐ
時間とエネルギーについては、天性の才能がある人達と同じレベルのものを持って
こなくてはならないのです。これは余りに単純な数学的結論です。
/高岡 英夫(運動科学総合研究所 所長)
♪今日のアニバーサリー♪ 思えば、今からちょうど10年前の今日、San Diegoに旅立ったんだよなぁ。しみじみ。お里帰りはいつになる事やら(泣)