ある裏長屋に、朝から酒を飲んで、仕事をしない大工がいました。
元々腕は確かで、仕事もできたのですが、どうも人に使われるのが性に
合わずにいました。大家は、家賃を滞納する大工を、何とかしたいと
思っていました。そこで大家は、大工にこう持ちかけました。
大家「お前さんは、酒が好きなようだね。どうだい、明日から毎晩の
晩酌の酒を、私が飲ませてやろう。その上、家賃も免除してやる」
大工「何言ってやがんで~。そんなムシのいい話をして、おいらを追い
出そうって魂胆だろう?」
大家「そんな事はないさ。そんな魂胆なんてありゃしない。ただお前の
大工の腕を見込んで、お願いがある」
大工「何で~、そのお願いってのは?」
大家「この長屋もかなり古くなってきて、戸板や台所何かもガタが出てきた。
そこで、明日から一軒一軒回って、修理しっちゃ~くれねえかい」
大工「何で~、それくらいの事で、酒も飲ませてくれて、家賃もタダになんなら、
やってやろうじゃね~か」
大家「その代わり、住人からお礼を一切もらっちゃいけないよ。それが条件だ」
こうして大工は毎日、一軒一軒長屋を回って、「どこか壊れた所はね~かい?
直してやら~」と言って、無料で修理をし始めました。すると直してもらった方は、
「すまないねぇ。少しだけど取っといておくれ」と言って給金を出すが、大工は一切
受け取らない。そうこうしていると、長屋の住人が時々、「いつもすまないねえ、
少しだけど食べておくれ」と言って、夕飯時に惣菜や酒を差し入れをしてくれる
ようになりました。そうなると大工も、人の役に立っているようでうれしい。
いつの頃からか、腕もいいし、人柄もいいと評判になってきました。そして色々な
所から、仕事が舞い込んでくるようになります。そうなると、一人では手が回らない。
弟子を雇うようになり、いつのまにやら立派で、評判の大工の頭領になっていましたとさ。