一炊の夢
中国の唐代のこと。ある時、盧生(ろせい)という青年の旅人が、茶屋に立ち寄って、
茶屋の主人(仙人)に粥を頼んだついでに、現実がうまくいかない事や立身出世が
希望である事を話しました。すると、主人から「これを枕にして寝ると、思いのまま
の人生になる」と言われました。
その後、盧生は誰もがうらやむ美人の娘と結婚し、トントン拍子で出世し、官僚、
知事、長官、大臣、宰相と皇帝に仕える最高位の官職まで任ぜられ、長年の栄華
を存分に楽しむ事ができました。しかし、その間、疑いをかけられ、死刑寸前や
自決に追い込まれたりといった大変な目にも遭い、茶屋の主人と出会って、50年
の歳月が経っていました。そして、とうとう臨終の時がきました。
盧生は、長年仕えた皇帝に書を送りました。「私は元山東の書生で、百姓仕事を
するつもりが、たまたま出世し、過分のお取り立てに賜りました。齢(よわい)
も80を過ぎ、余命幾ばくもございません。最後までご恩にお応えする事もできず、
お別れを告げねばならなくなり、後ろ髪を引かれる思いが致します。ここに謹んで、
感謝の意を表す次第でございます」。
そう言って、とうとう盧生は死んだ、と思った瞬間、眠りから目が覚めました。
よくよく見渡すと、最初の茶屋で寝込んでしまって、夢を見ていただけでした。
しかも、粥がまだ炊るか炊けないかの間に、50年の人生を、それはそれは
つぶさに見たのでした。