たまたま

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私をとても可愛がってくれたS姉さんという人がいた。「ようやく本音で話す事の
できる人に出会えたなぁと思って、すっごくうれしかったの」とさりげなく体に
良いスープを買って来てくれたり、まるで母親のように私を気遣ってくれた。

彼女は手相を見ると、色々な事がわかるという特技を持っており、小さい頃から
とても霊感が強かった。結婚し、子供が生まれ、引っ越しを考えた際、あるアパ
ートに下見に行くと、突然「パパ、ここはダメ。私、ここに住んだら子供を殺し
ちゃう」と叫んだ。驚いたご主人はすぐに取り止め、別のアパートに決めた。

数ヶ月後、TVで殺人事件のニュースが流れ、ふと見ると彼女が叫んだアパートだった。
そして、殺されたのは子供であり、犯人は母親だった。S姉さんは鳥肌が立ち、震え
が止まらなかった。「あの時、瞬間的に私が子供の首を締める映像が浮かんだの。

パパはとても驚いてたんだけど、そう感じたのは嘘じゃなかったのよね。やっぱり
あの家のせいだと思う。そういう事って未空さんは信じられる?」「はい。S姉さん
が直感を信じたのが何よりだったと思います。本当に良かったですよ」「そうよね。
あのニュースを見た時は、本当に驚いちゃって」「S姉さんの霊感は自分、そして
ご家族を守ってくれる力なんですよ。お役目ですから、ますますその能力を生かし
て下さいね」「そうかもしれないわね。もし、未空さんに何かある時はすぐに知ら
せるから、変な風に思わないでね」「もちろんですよ。とても有り難いと思って
います。携帯は24時間ONにしてありますので、何とぞよろしくお願いします!」

S姉さんはまっすぐな人で、義理人情を重んじる昔気質のタイプだ。そして、嘘が
つけない。そんな彼女が仕事で手相を見ていた時の事、いつものように「それじゃ、
もう1つの手も見せて下さいね」と言うと、その女性は恐る恐る手を出した。思わず
息を飲んだ。その女性は手首から先がなかったのだ! S姉さんは頭の中が真っ
白になり、鑑定どころではなくなったが、何とか平静を装い、手首の筋を見たりして
鑑定を終えた。お金を受け取った後、帰って行く女性の後ろ姿を見守りながら、
「本当にごめんなさい。もう2度としません。どうか許して下さい」とずっと手を
合わせ、心の中で土下座した。

どれほど彼女を傷つけた事か(号泣)。私は何て事をしてしまったんだろう。S姉
さんはさんざん自分を責めた。そして、ある決意をする。「2度と悲劇を繰り返さ
ないためにも、この体験をわかってくれる人にだけ話していこう」と。「だから、
未空さんにも話したの。私にはたまたま手が2本あり、たまたま指が10本ある。

それは決して当たり前の事ではなくて、とても恵まれてるのよね。それも、たま
たま今はあるだけの事なの。そして、世の中にはたまたま、手が指が足が目など
のない方がいらっしゃる。だから、その人の見せたい部分だけ見せれば、それで
十分なの。決して無理強いをしてはならない」

以前、私がお会いした女性は、四季を通して長袖しか着なかった。真夏でも決して
カーディガンを脱がない。そして、ある日「私、これを人に見られるのが怖いん
です」とリストカットの傷跡を見せてくれた。私は無言でじっと見つめる。本当の
苦しみや悲しみ、辛さは本人にしかわからない。だが、最後は2人で傷を撫でながら、
「少しずつ少しずつマイペースで、ゆっくり回復していきましょう」と約束した。

私にはたまたま、リストカットの傷がないだけだ。「個別に徹して、不変に至る」
今まさにこの言葉を、肝に命じなければならないだろう。最近、彼女から連絡は
ないが、きっと大好きな煙草をプカプカとくゆらせながら、仲間と一緒においしい
お酒を飲んでいるに違いない。貴重な体験を教えてくれたS姉さん、どうもありが
とうございました。心から感謝しています。くれぐれも飲みすぎには気をつけて
下さいね。不健康な妹・未空も早く寝るようにしますから(笑)
20050421

ナマ拳、その他のスケジュールはこちら

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