あとかくしの雪
私は昔話が大好きで、以前は旅行に出かける度、ご当地にまつわる昔話の
絵本などを、自分のお土産によく買っていた。TVの名作「まんが日本昔ばなし」
も毎週欠かさず見ていたっけ。その中でも、この話はココロがほっこりしてくる。
「あとかくしの雪」
寒い冬がやってきました。
ある年の11月23日の夕方でした。
ボロボロの衣をまとった、旅のお坊さんが村にやって来ました。
「もし、どうか、今夜一晩、泊めて頂けませんか?」
家の戸口に立って、頼んで回りましたが、どこの家でも断られ、泊めてもらえません。
食べ物を恵んでくれる家もありません。
村のお百姓さん達は、この年、作物が実らず、自分達の食べる物さえなくて、困っていたのです。
お坊さんは、一軒一軒断られ、とうとう村の一番端の一番、貧乏な家に辿り着きました。
寒いし、お腹は空くし、もう倒れそうです。
でも、この家では おばあさんがたった一人で、やっと暮らしているのでした。
おばあさんは、お坊さんを見ると、
「さぁさぁ、どうぞ。こんなあばら家で、それに今夜は何も食べる物がないのですが、
良かったら休んでいって下さい」
と言って、お坊さんを家に上げました。
「火のない囲炉裏ですが、どうぞ」
貧乏で、火を焚く物もないのです。
お坊さんは、ホッとした様子でわらじを脱ぐと、火のない囲炉裏のそばに座りました。
おばあさんは、お坊さんに何かしてあげられないかしらと、そこらを見回しましたが、
やっぱり何もありません。
困ったおばあさんは、そのうちそっと、家を出て行きました。
外に出たおばあさんは、隣の地主さんの田んぼの隅に、
まだ稲の束が掛かっているのを見つけました。
「ちょっと、お借りしますよ。必ずお返ししますから」
と言って、その中から2~3束、引き抜きました。
それからおばあさんは、猫の額ほどの自分の畑に行ってみましたが、
やっぱり何もありませんでした。
仕方なく戻る途中、隣の地主さんの畑に、大根が生えているのを見つけました。
「ちょっと、お借りしますよ。必ずお返ししますから」
と言って、大根を一本だけ引き抜きました。
地主さんの田んぼと畑には、おばあさんの足跡が残って、
おばあさんの家の戸口まで続いています。
明日の朝になれば、地主さんは気づいて、怒鳴りこんで来るだろう。
おばあさんが、稲の束と大根を抱えて帰ると、
お坊さんは熱心に、何やらお経を唱えていました。
おばあさんは、稲から実を取って、それを石臼で挽きました。
今度は、裏山に行き、焚き木を拾って来て、囲炉裏に火を焚きました。
しばらくして、米の粉で作った団子と大根のお汁ができました。
「お坊さん、さぞお腹が空いた事でございましょう。
団子汁が煮えましたから、召し上がって下さい」
お坊さんは、たいそう喜んで、お椀を取りました。
おばあさんは、一緒にお椀を取りながら、自分の足跡が気になって、
「今夜、雪でも降りゃいいがなぁ」と独り言を言いました。
明くる朝、目を覚まして、おばあさんはビックリしました。
外一面の雪です。
おばあさんが気にしていた足跡は、雪で綺麗に消されていました。
お坊さんは、おばあさんの優しい気持ちに感謝して、
雪の中をどこへともなく去って行きました。
それからというもの、この村では、毎年11月23日頃になると、
おばあさんの足跡を消してやろうと、雪が降るのだと言われています。
仏様の手に似ている事から呼ばれている果実「佛手柑」入りの飴だが、味はフツー。でも、みんなこのネーミングに惹かれて、つい買ってしまうそうな。「あとかくしの雪」は、仏様が降らせたに違いない。あのボロボロの衣を着たお坊さんこそが、仏様だったのだろう。