親を殺すということ
最近、また痛ましい事件が続いてますね。子供が親に鉄アレーや刃物で襲いかかる。何でこんな事が起こってしまうのでしょう。
何の問題も起こした事がなかった子が、どうして? いくつかの理由が考えられるでしょう。今回は、そのうちの1つを解くカギを
紹介します。先日、引きこもりの子供を持つ親御さんが、相談に見えました。お母さんが言うには、「息子は今までとても活発で
素直で、反抗期もほとんどなく、勉強も自分から進んでするような良い子だったんです。それが大学受験前のこんな大事な時に
引きこもるなんて、もうどうしたらいいか。情けないやら悔しいやらで、早く正常な状態に戻したいんです。どうか助けて下さい」
というものでした。そして、これまでに行った心療内科のドクターやカウンセラーの無能さをまくし立てました。「あの人達の言う
通りにしてても、ちっとも良くならないんですよ!」と。さぁ、あなたがカウンセラーならどうしますか? このお母さんと一緒に対
策を考えますか? どうしたらうまくいくのか、どうしたら学校に行けるのか、どうしたら社会復帰できるのか、どうしたら、どう
したら・・・これって、カウンセリングでしょうか? 「正常な状態に戻したい」「ちっとも良くならない」。一体、この親にとって「良い」
とは、どのような事を指すのでしょう。そしてそれは、彼らの子供にとっては、どのように映っているのでしょう。親の「良い悪い
(価値観)」と子供のそれとは、埋めがたいギャップがあるものです。もちろん、親が子供の価値観に合わせる必要なんて全く
ありません。ただ、お父さんやお母さんと息子や娘の考える事や感じる事には、違いがあるという事を認識しておく必要があり
ます。そして、その違いを言葉のやりとりで確認し合う事。この作業を怠ると、埋めがたいギャップは、やがて大きな河になり、
対岸が見えなくなります。相手の声が聞こえなくなって、自分の声だけがこだまするようになります。そのうち、自分が間違って
いない事を確認するために、人を操作するようになります。自分の価値観に、人をはめ込もうとする行為をどう思いますか?
普通の大人なら、「やめてくれ」と言うでしょう。でも、子供達は違います。何とか親の期待に応えようとします。でもいつかは、
応えられない時がきます。いつもいつも100点は取れないのです。99点の時、親がどんな態度に出るのか、子供達は、戦々
恐々としています。そして、こう言われるのです。「100点じゃなかったのね」。今まで我慢してきたものが、崩れ出す瞬間です。
もう親から愛されないと思った時から、引きこもっていきます。「私は今まで一生懸命、期待に添うようにがんばってきたじゃな
いの。もう好きにさせて、放っておいて」と心の中で叫ぶのです。引きこもりは、いわば負の怒りのエネルギーです。へんに突つ
くと、そこから怒りのエネルギーが噴出します。こうやって、負の怒りを溜め込んでいる間に彼らは、心の中で親を抹殺していき
ます。今までの人生を振り返って、親にしてほしかった事、してほしくなかった事を反芻しているのです。できれば、彼らが咀嚼
し終えるまで、待ってほしいのです。自ら死を選ばない限りは、何もしないでいてほしいのです。お父さん、お母さん、あなた達
にできる事は、「何もしない」事です。引きこもる子供達を見て、不甲斐ないと思う親は多いものです。だからつい、「何をしてる
んだ! もっとちゃんとしろ」と言ってしまいます。そういう言葉や親の態度が引き金になって、負の怒りのエネルギーが噴出して、
今まで心の中だけで密かに行っていた「親殺し」を実行してしまうのです。「こいつさえいなかったら」「こんなやつの子供でなか
ったら」「何で私を産んだのよ」。こんな言葉が子供達の心を制御不能にしてしまうのです。グループワークで親殺しをする事が
あります。親殺しのワークは、憎いから「殺す」のではなくて、今の自分には必要がないから、「切り離す」事なのです。親を憎い
と言いながら引きずっているのは、他の誰でもなく子供自身なのです。親のせいではなく、自分の責任で「切り離し」を行います。
大人になってからも、引きずっている部分はあるかもしれません。結婚し、我が子ができても、その引きずっている部分だけは、
子供の頃のままなのです。引きずるのは、「親」だけではありません。時には、いじめっ子であったり、レイプ犯であったり、夫や
妻、我が子であったりします。もし、あなたが生き辛さを感じる事がありましたら、専門家を利用する事をお勧め致します。
/芳野 正彦(特定非営利活動法人 実践心理教育センター理事長)
♪今日の六ヒル 毛利庭園は期待外れ。周囲の通りはブルーと白のイルミネーションに彩られ、幻想的で超キレイ。しばし佇む。