お金
「ホフマンさんは、お金の未来は、どうなっていると考えていますか?」
僕の問いに、遠くを見るようにして、彼は語り始めた。「半世紀以上、お金
と付き合ってきて、気づいた事がある。それは、お金は中立なエネルギーで、
それ自体に全く意味はない事だ。それに喜びや憎しみ、悲しみ等の意味を
付けているのは、人間だ。お金を動物に見せても、反応しないだろう」
「おもしろいですね。ついこの間までは、フラン紙幣は僕にとって、子供
銀行のお金のようでした。でも、今はその価値がわかってきたので、日本
円と同じように、感情的に揺り動かされる感じがします」「そうだろうね。
そのうち、感情的な揺れが少なくなると思うよ。人類全体も、お金に執着
したり、感情的に揺り動かされる事が少なくなっていくと思う。私は、お金
は21世紀の後半に向けて、なくなっていくだろうと思う」。僕は、彼のあま
りにも大胆な発言に、度肝を抜かれた。「お金がなくなるのですか?」「そう。
お金は将来の世界で、意味を持たなくなるだろう。それは、所有という概念
がなくなるからだよ。今は、人類は所有という不思議な幻想に縛られている。
物質的な物は全て、生きている間だけ、リースしているだけだというのにね」
「お金がある日、急になくなるという事ですか?」「いや、そうではない。近い
将来、急にお金がなくなる事はないだろう。しかし、お金は次第に、その重要性
を失い、多くの人がどうしても欲しい物にならなくなると思う。これから21世紀に
かけて、色んな技術革新が起き、人類は生活していくという意味での労働から
解放されていくだろう。そして、ただ単に、生きていく事やモノを所有する事
よりも、人生をどう楽しむのかという事に、注意がいくだろう。そうすれば、
お金は単なる友情、愛情、サポートのエネルギーがのった投票用紙のような
物になるに違いない。好きなパン屋に行き、その主人を応援するために置いて
来るファンレターのようなものだ。それをたくさん集めたからといって、その人
が人間的に優れている訳ではない。ただ、応援してくれる人が、周りにたくさん
いる事を意味しているにすぎない。それ以上でも、以下でもない。感謝する事
ではあるだろうが、誇りに思ったり、俺は偉い!と思うのは変だろう。人類の
意識が進化していけば、次第に感情的なゴミの量は減り、他人と比べ合ったり、
競争する事はなくなるだろう。すると、人は自分が何をするのかに集中して、
自分が楽しめる事をやっていくに違いない。そうすれば、君のように周りの事
ばかりを気にして、自分の好きな事がわからないなんて事はなくなるだろう」。
僕は、そんな理想の世界に思いをはせた。しかし、同時に不安が襲ってきた。
「でも、もしお金がなくなってしまうのなら、僕は何のために、お金の事を
学べば良いんでしょう?」「なかなか良い質問だね。中国の少林寺拳法の
マスターは、戦わなくてもいい境地に到達するために、技を一生かけて磨く
のだと聞いた事がある。君は、お金のない世界を作るために、お金の事を
学ぶのだよ」
♪今日の非常謝謝! 「お金を“地位”や“名声”と置き換えても通用しますね」というMailを頂いた。お金=ファンレターっていうのはシビレますな(笑)