ちょっとイイ話④
以前、ある会社に勤めていた頃の事です。出勤して席に着くと毎朝、机の上や
引出しの中に、色んな種類のお花がぽつんと置いてある事がありました。周りの
人に聞いても、誰が置いてくれたのかわからないまま、何日もそれは続きました。
時々、色んな人に冷やかされながらも、私はそのお花を小さなコップや灰皿に
浮かべて、飾って眺めていました。1ヶ月以上も経った頃、私の斜め向い側に座る
Mさんが、誰かわかったよと教えてくれました。それは、隣の部署のKさんでした。
Kさんは、私より5つほど年上の東京の優秀な大学を出た頭の良い人で、明るくて
仕事のできる人という印象の人でした。数回、話をした事がある程度なのにな。
しばらくして、コピー機のそばで一緒になった時に、思い切って尋ねてみました。
「いつもお花をくれるのはKさんですか?」「えっ、何でわかったの?」Kさんは
恥ずかしそうに笑っていて、私も何だか恥ずかしくなり、「どうもありがとう
ございます」とだけ言いました。それからは何かと理由をつけては、席にやって
来て話をするようになりました。時々、急に突拍子もない事を言ったり、遠く
離れた席なのに「消しゴム、貸して」何てやって来ます。ちょっと変わった
おもしろい人だなぁと思っていると、そのうち色んな噂を聞くようになりました。
Kさんは昼間、会社に来なかったと思うと、夕方6時頃になってやって来て、
「おはよう」と皆に挨拶したり、急に大声を出したり、裸足で歩き回ったり
しているらしいというのです。同じ部署の先輩が心配して、あまり関わり過ぎ
ないように、私に色々注意をしてくれました。話を聞いてみると、Kさんはもう
ずいぶん前から、精神を病んでいたそうでした。元々、そういう病気はある
ものの、病院に通ったり、入院をしたり、就職前にはすっかり回復して、
仕事を始めたはずが、何かをきっかけに、こんな状態になっているそう。
会社の方も、遠くに暮らすKさんの両親に、引取りを依頼してるけど、両親が
それに応じないようだとも聞きました。でも普段は、普通に仕事もして、
明るくおしゃべりもして、冗談も言う優しいKさん。ちゃんと残業をして、
皆とお酒を飲みに行ったりしている様子は、何も変わらないように見えました。
しばらくして、Kさんの姿を見る事がなくなって、地元の病院に入院したと
聞きました。お見舞いに行ったKさんの友人である、私の先輩から渡された
手紙を見て、愕然としました。1枚には凄い達筆で、季節の話や仕事の事、
また皆で飲みに行こう何ていう事が、理路整然と書かれていました。
もう1枚は、色鉛筆で幼稚園児が描いたような、当時流行っていたアニメの
絵でした。「僕が書いた絵です。この女の子は何だか〇〇ちゃん(私)に
似てるように思えて、大好きなんだよ」と書かれていました。それっきり
Kさんとはもう会う事もなくなりました。Kさんが、机によく置いてくれた
椿の花を見かけると、Kさんの事を思い出します。今頃、元気にしていて
くれたらいいなって思います。優しい気持ちや純粋な思いやりは、いつまで
たっても、こんな風に思い出せるものなんだなと、今日も公園に咲く椿を
見て思いました。Kさん、きれいなお花をどうもありがとう!
♪今日のいいコト♪ 超おいしい大粒の苺が届いた。感動&感激の嵐(号泣)
まだ見ぬKさん、いつもどうもありがとうございます!