“できない”と“やらない”を混同しない/大塚全教さん
わずかに感覚のある左腕を左足の膝に乗せて動かしながら、絵や書の
作品を残した尼僧の故・大塚全教(ぜんきょう)さんは、私がマザー・テレサ
と並んで、敬愛してやまないアイドル(笑)、大石順教さんのお弟子さん
だった。順教尼について知りたい方は、「大石順教」で検索してみてね。
私が京都を訪れた際、敬愛する大石順教の所縁(ゆかり)のあるお寺
を訪ねて来た。2年前、高野山に行ったのも、元はといえば、ここに
大石順教のお墓があり、そこに腕塚もあると知って、何としてもお参り
したいと切望したからだ。正直、奥の院はついでと言ってもいいぐらい。
ごめんね、空海(笑)。
あれだけの偉業を成し遂げた女性にもかかわらず、有名人の墓地が
載っている地図に名前はなく、私は高野山に行く前、徹底的にググって、
とにかくお墓の情報を集めた。だが、たたでさえ重症な方向痴呆症の
私は、高野山では迷いに迷って、半ばあきらめかけた頃、ようやく大石
順教のお墓を見つけたのだ!
その時の私の喜びはハンパなく、ウサイン・ボルトも抜き去るほどの
勢いで、お墓に駆け寄った(笑)。ようやく巡り会えた、憧れの人に・・・
うるうるうるうる。「高野山」で検索すると、ぎょーさん出てくるからね。
私は大塚全教さんという方を存知あげなかったが、大石順教尼との
生活から、数々の学びをされた貴重な話がメルマガに紹介されて
いたので、以下に引用させて頂く。
「“できない”と“やらない”を混同しない」
大石順教先生(17歳で養父によって両腕を切断されるも、
菩薩行に一身を捧げた尼僧)の所には、身体の不自由な
女性が数人、寝食を共にしておりました。
一日は朝5時起床、庭の草取りから始まります。
足がダメな人は、ゴザに座って周りをきれいにし、
手が不自由な人は、足で草を抜き取ります。
その仕事を順教先生は率先してなさいます。
それが済むと、千手観音様にお参りして
般若心経一巻を唱え、朝食です。
不自由を抱えた身体でも、それぞれが工夫して
日常を立派にこなしていく様子は、驚くばかりでした。
それから、それぞれが仕事にかかります。
私に与えられたのは便所の掃除でした。
私は絵の修業に来たのに、
何だか当てが外れたような気がしました。
それに、便所掃除などやった事がありません。
それまで自分では、努力して日常の事は
大体できるつもりでしたが、
できないところは父母や兄弟に
助けてもらっていました。
誰の力も借りず、一人で便所掃除など考えられません。
「できません」
私はそう答えました。
それなら便所を使ってはならない、
というのが順教先生のお返事でした。
それは出て行けというのと同じです。
決心して京都に来たのに、それでは困ります。
順教先生は私を井戸に連れて行きました。
その頃は水道ではなく、ポンプ式の井戸でした。
私の力の弱い左手では
とてもポンプを押す事はできません。
すると、順教先生は背中でポンプの柄を押し上げ、
次は脇に挟んで、押し下げて見せたのです。
勢いがないから、水はポタポタとわずかしか出ません。
でも、確かに水は汲めるのです。
次はバケツの水を便所まで運ばなければなりません。
だが、肘から先しか動かない私の左手の弱い力では、
バケツいっぱいの水はとても運べません。
それなら、私の左手で持てる少しだけの水が
バケツの底に溜まったところで運び、
便所にもう一つバケツを用意しておいて、それに空ける。
それを繰り返せば、バケツいっぱいの水が
運べる事を教わりました。
それから便器を拭き、床に雑巾をかけます。
それには自由に動く足を使います。
時間はかかります。だが、工夫を凝らせば
誰の助けも借りず、確かに自分一人でできるのです。
「あなたはできないと言うが、
できないのではなく、やらないだけ。
やらなくて、できるはずがありません。
人間、やればできない事はない。
“できない”と“やらない”を混同してはなりませんよ」
順教先生の言葉が身に染み、
目の前がパァッと明るくなっていったのが忘れられません。
そうなのです。
私の道は、あそこから開けていったのです。
不自由を抱える身体だからこそ、
日常生活はきちんとしなければならない。
順教先生はこの考えを徹底されていて、
それは厳しいものでした。
だが、身体の自由になる部分を使って工夫し、
身の回りをきちんと整えると、気持ちが柔らかくなり、
自然と微笑みがこぼれるようになるものです。
真の優しさは厳しさの中にある。
これも順教先生にお仕えして知った事でした。
/大塚 全教(無心庵 この花会)
「致知」2006年3月号 特集「道をひらく」より
http://www.chichi.co.jp/monthly/200603_index.html
高野山にあった有り難~い空海の御手(?)イスは、座り心地もまぁまぁイイんだけど、何だか落ち着かないんだよね(笑)