寓話「倍返しの怪物」
昔むかし、ある所に、小さな村がありました。
この村は、獰猛な怪物に悩まされていました。
村と外の世界を結ぶたった1つの道を怪物が、とおせんぼしていたのです。
勇敢な騎士達が怪物を退治しようとしましたが、ことごとく失敗に終わりました。
怪物は不思議な力を持っていて、どんなに強力な武器で挑んでも、
その2倍以上の力で対抗してきました。
最初の騎士は、木のこん棒を振り回して襲いかかり、
2倍の大きさのこん棒で叩きのめされました。
2番目の騎士は、熱い炎で焼き殺そうとし、
2倍の熱さの炎を吹きかけられて、焼け焦げて炭になりました。
3番目の騎士は、鋼の剣を振りかざして挑み、
長さが2倍で、切れ味も2倍の剣で真っ二つにされました。
3人の騎士の死を見て、村人達は怪物と闘うことをやめ、
不自由な暮らしを辛抱するようになりました。
ある日、村一番の馬鹿者のジャックが言いました。
「怪物を退治する方法がある」
ほとんどの村人は、馬鹿にして笑いました。
それでも好奇心旺盛な人達と、勇敢な人達が怪物退治に同行しました。
ジャックは食べ物と水を持って、怪物のいる場所に行きました。
すると、怪物が唸り声をあげ、脅すように伸び上がり、睨みつけました。
ジャックがリンゴを1個手に取り、怪物に近づいて行くのを見て、
遠まきに見ていた村人達は息をのみました。
「お腹、空いてないかい?」
ジャックが声をかけると、怪物は目をつむるようにして、リンゴの匂いを嗅ぎました。
怪物の巨大な口が上下に開いた瞬間、野次馬の女性の1人が気を失いました。
怪物はジャックの震える手から、そっとリンゴを取り、口に放り込みました。
そして、片手を上に大きく振り上げ、目を丸くして見ている村人達の前の地面に、
握り拳を叩きつけました。
バン!!!
怪物が手を開くと、そこにリンゴが2つありました。
さっき食べたものより、真っ赤でみずみずしいリンゴです。
更に怪物は、素焼きの壺になみなみと注がれた水を飲み干した後、
もっと澄んでいて、美味しい水がなみなみと注がれた黄金の壺を2つ出現させました。
この奇跡をみんなに知らせようと、野次馬達は村に走って戻りました。
村中の人達がやって来ると、ジャックが怪物にニッコリ笑って見せ、
怪物もジャックに笑みを返しました。
その温かい笑みを見て、どんなに疑り深い村人も納得しました。